朗読劇『成瀬は天下を取りにいく』、感動の初日公演レポート

朗読劇『成瀬は天下を取りにいく』初日公演レポート

朗読劇『成瀬は天下を取りにいく』が、2025年9月13日から15日までの期間で初日公演を行いました。シリーズ累計150万部を超える人気作品として、本屋大賞も受賞したこの物語が、声を通じてどのように表現されるのか、多くのファンが期待に胸を膨らませ劇場へ集まりました。

初日公演の熱気

静かな始まりから、物語が進むにつれ、劇場全体が“成瀬あかり”の存在感で満たされていきました。彼女の青春の日々や感情の揺れ動き、そして「この世界を信じる力」は、観客それぞれの心に深く響いていました。原作の宮島未奈著『成瀬は天下を取りにいく』（新潮文庫刊）は、女子高生・成瀬あかりの決意と行動力を描いた作品で、多くの読者が彼女に共感し、笑い、感動しています。

この朗読劇は、人気の声優による日替わりキャスト制を採用しており、毎回異なるパフォーマンスを楽しむことができました。

初日のキャストは、成瀬あかり役を岩田陽葵、島崎みゆき役を紡木吏佐、西浦航一郎役を梅田修一朗が担当。各々が持つ独自の魅力は、キャラクターをリアルに表現する一助となりました。

岩田陽葵の表現力

成瀬あかりを演じた岩田陽葵は、一見常識外れなキャラクターを、彼女の繊細な感情表現を交えて見事に演じきりました。特に、感情の爆発がない日常会話における決意や言葉の強さは、彼女の声によって自然に演じられました。岩田の演技には圧倒的な熱量が宿り、「島崎、わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」という独特の宣言も、観客の心に力強く響いていました。彼女の演じる成瀬は、内側から発せられる情熱がしっかりと表現されています。

紡木吏佐の存在感

島崎みゆきを演じた紡木吏佐は、成瀬の突飛な行動を傍で受け止める大切な役どころを担当しました。彼女の自然で親しみやすい声は、観客にとっての共感の窓口となり、成瀬の個性を受け止めるバランスの取れた演技を見せました。感情の起伏を控えめに伝えるそのスタイルは、物語に安心感を与え、島崎の人間性がしっかりと表現されています。

また、二人の軽快なやりとりは、漫才のような楽しさを生み出しました。成瀬の独特な発言に対する島崎のツッコミが絶好調で、演劇でありながらも笑いの中に感動が同居していました。

梅田修一朗のキャラクター形成

西浦航一郎役を演じる梅田修一朗は、物語の中で最も“普通”な存在でありながら、その性格に深みを与える演技を見せました。成瀬の強烈な個性に圧倒されながらも、彼なりの成長が見え隠れし、その心の葛藤を丁寧に表現しました。

特に、成瀬の明るい性格との対比が際立つシーンは、観客に強く印象を残しました。成瀬が「二百歳まで生きようと思っている」と語る場面では、岩田のエネルギーが伝わり、梅田がその真剣さを受け取る瞬間が展開されました。この二人のやりとりには緊張感が伴い、リアルな高校生同士の交流が見事に描かれていました。

野坂実の演出

演出を担当した野坂実は、声だけで世界を立ち上げる朗読劇の特性をしっかりと活かし、リアリズムと人間ドラマを深く描くことに成功しました。彼が生み出した空間では、登場人物たちの距離感やセリフの間がリアルな青春を伝える重要な要素となりました。音楽も物語の世界観を引き立てる大きな役割を果たし、観客の感情を揺さぶる要因となりました。

終演後の感想

公演終了後、岩田、紡木、梅田の三人によるアフタートークが行われ、客席に向けて感想や役柄への思いを語りました。岩田は役に不安を感じたことを明かし、紡木はキャストごとの異なる解釈を楽しむことの重要性を語りました。梅田は新しいチャレンジとしての役作りについて触れ、即興の呼吸を感じながら演じた経験を共有しました。

彼らのトークからは、舞台経験に裏打ちされた達成感や、観客との一体感が思いっきり伝わってきました。

朗読劇『成瀬は天下を取りにいく』は、岩田陽葵、紡木吏佐、梅田修一朗の熱演と、野坂実の演出によって、観客の心に残る素晴らしい公演となりました。終演後のロビーには、観客の「ちょっとだけ勇気をもらった顔」が多く見受けられました。