新たな挑戦が生む舞台芸術の新しいアプローチ『平家物語-胡蝶の被斬-』
2025年3月14日から新国立劇場中劇場で上演される舞台『平家物語-胡蝶の被斬-』。古典文学『平家物語』を基にしたこの作品は、特撮ファンに不動の人気を誇る脚本家・小林靖子氏が台本を担当し、演出を朴璐美氏が手掛けるという豪華な顔ぶれが揃っています。さらに、振付・ステージングには、森山開次氏が参加し、和の要素も取り入れられた独自な舞台芸術が展開されます。
この舞台は、朗読劇の枠を超え、芝居と舞踊を融合させた「総合舞台芸術」を目指しており、本作の稽古場に訪れた際、鈴木美潮記者がその魅力を体感してきました。
見たことのない景色の創出
稽古場で繰り広げられる光景は、まさに「見たことのない景色」としか言いようがありませんでした。本作の主要キャストは皆、役に扮することで、すでにその存在感を放っていました。特に、声優が多く集まるこの作品においては、難解な台詞であっても、彼らの声から生まれる力強さと表現力が際立ち、それが壇ノ浦の悲劇や平家の栄華と没落の物語を鮮やかに映し出していきます。
舞台の中心には、豪華な衣装や派手な演出だけでなく、出演者のオーラと声の響きが存在し、見る者をその世界観に引き込んでいきます。
音声や動きが生み出す迫力
この舞台の魅力は、演技だけでなく、マルチパフォーマーやダンサーたちによる表現にもあります。稽古場では、彼らが「平家物語」の一部を朗唱しながら、民衆となって打ち寄せる様子が印象的でした。彼らの動きは群衆となり、武者となり、物語の雰囲気を作り上げていました。このような集団の動きと声のハーモニーは心地よく、平安時代のムードを巧みに伝えています。このように、シンプルな舞台装置でも、かつての平安時代末期の雰囲気を見事に描くことに成功しています。
演技力の表現と役の解釈
稽古では、平清盛を演じたのは山路和弘さん。彼の演技は、力強い権力者の複雑な心情を余すところなく表現し、観客の目を釘付けにしていました。他にも、麻実れいさんは平清盛の妻、時子役としてその風格をしっかりと見せつけ、咲妃みゆさんは長女、徳子役で可憐さとしなやかさを兼ね備えた演技を披露しました。
また、湖月わたるさんは長男、重盛を座っているだけで凜凜しく演じ、観る者を惹きつけます。
逆に、関智一さんの宗盛や島﨑信長さんの重衡といったキャラクターには、それぞれの役の悲しみが浮き彫りになり、本当に多彩なキャラクターたちがいることが感じられました。
ダンスと舞台美の調和
また、ダンサーたちの存在も舞台に鮮やかな彩りを添えています。彼女たちは生演奏のバックに、風のように軽やかに舞い、物語の進行に合わせてシーンの変化を見事に表現していました。振付や立ち位置の細やかな調整が、物語の流れをさらに引き立てており、ほんの数センチの動きで舞台全体の印象ががらりと変わることも驚きでした。
稽古が進むにつれ、台本を手にすることが意識から消え、キャストたちが確かに平家一族としてそこに存在している実感が強まりました。鈴木美潮さんは、朴璐美氏が語った「新しい芝居」を体感し、その意義を痛感されたようです。
この舞台は、3月14日から17日までの公演で残席が僅かとのこと。その新たな挑戦が映し出す舞台芸術の真髄を、多くの人々にドキドキする体験として味わってもらいたいと願います。