日本文学の巨星、松本清張。彼の作品は多くの読者を惹きつけ、その魅力の一因は女性キャラクターの描写にあるといっても過言ではありません。著者の酒井順子さんは、その清張の女性像を新刊『松本清張の女たち』で深く掘り下げています。これまで、女性の生き方や心情について書き続けてきた酒井さんが、どのようにして清張の女性キャラクターを解析し、現代においてその意味を問い直すのか。
大学卒業後、広告会社での勤務を経て、自身の経験を基にしたエッセイで注目を集めた酒井さん。特に2003年に出版した『負け犬の遠吠え』は、未婚女性の生き方を描き大ヒット。以降も女性の視点から日本社会を照らし続けてきた彼女が、松本清張に注目した理由は何でしょうか。
彼女は、清張が短編小説や中編小説を女性誌に発表していたことに注目します。「連載する雑誌の読者を意識する作家」として、清張が描いた女性主人公たちの変遷を分析。彼女は、この作品たちの中に潜む清張の先見性、つまり女性も男性同様に欲望や悪意を持つ存在として描かれていることが、彼の作品の魅力の一端であると考えています。
『松本清張の女たち』が扱うテーマの一つは、松本清張が影響を受けた女優・新珠三千代との関係です。彼の作品にインスパイアを与えていた新珠は、宝塚歌劇団から映画界に転身し、清張原作の映画の主演を務めた名女優。書中で、彼は新珠の存在を自身の作品に取り込んでいることを明かし、そのイメージがどのように彼の創作に影響を与えていたのかを考察しています。
今年は松本清張の没後30年にあたるだけでなく、日本戦後80年、そして清張の女性誌デビュー70年でもあります。このような節目を受け、酒井さんは本書を通じて清張の作品に新たな視点を与えます。日本一の女性作家として名高い清張ですが、彼が現代の女性読者に益々響く理由がどこにあるのか、本書はその核心に迫ります。
「清張の女たちは、市井の女たちに代わって殺し、騙し、不貞を働きました。黒い女の物語は、時を忘れる読書体験を提供するだけでなく、多くの女性たちが隠してきた心の内を洗い流してくれるものです」と酒井さんはコメントしています。このように、作品の中で描かれる女性の姿には多くの共感や反映が見られ、彼の作品が時代を超えて共鳴し続ける所以でしょう。
『松本清張の女たち』は、女性の心情や生き方を深く考察し、松本清張の根底にある思想を読み解く貴重な一冊。是非、多くの方に手に取っていただきたい作品です。